松本すみ子の「定年準備講座」
 

団塊友達夫婦の行方                            2006年6月30日

 

 団塊世代やシニア世代の活動を支援する松本すみ子氏が,間もなく定年を迎える団塊世代の夫婦について,その将来の姿を占い,理想像を語る。夫婦は理解や感情を共有しつつも,それぞれが個として自立することが必要だという。

◆本当の“友達夫婦”はこれから始まる

 団塊世代は,それまでの夫唱婦随型ではなく,同等の権利意識を持つ“友達結婚”をしたと言われている。確かに,大学の同級生,サークルやクラブ活動の仲間同士,入社同期で結婚したという人が目立つ。知り合いの団塊夫婦を見渡してみると,少々の差だが,妻の方が年上という例も少なくない。恋愛結婚が増えた時代だ。だから,その上の世代よりはずっと,「男は仕事,女は家事」という役割分担意識は薄いはずだった。

 ただし,現実はその意識とは裏腹にある。団塊男性の多くは,日本の高度成長を支える“戦士”として企業の中に取り込まれ,働くことを唯一の生きがいとした。団塊女性の多くは男女平等だったはずの社会に受け入れてもらえず,専業主婦として家庭に収まった。家事も仕事も分担して共に家庭を築き上げる“友達夫婦”という理想は,実現されることがなかったのだ。

 しかし,まだチャンスはある。寿命が延びているおかげで,団塊世代の夫婦は他の世代が経験しなかったような長い時間を二人だけで過ごすことになる。時間はたっぷり残っている。お互いが望めば,これからだって,本当の“友達夫婦”になることができるのだ。

 団塊世代は,たくさんの新しい価値観を生み出してきた。今また,リタイア後の夫婦の新しい形を創っていく可能性がある。この世代の老後を,今までと同じようにイメージするのは間違いかもしれない。

◆定年後に備えてウォーミングアップ

 とはいえ,リタイア後しばらくは,仕事や会社という居場所を失った男性が精神的に混乱するのは目に見えている。また,夫や子供を送り出した後,自由な時間を過ごしてきた妻は,常に夫が家にいるという状況に違和感を覚える。「あなたがいるだけでストレスです」という妻に対し,夫は「ただ家にいるだけ。何も悪いことをしていないのに,なぜ」とつぶやくのである。これは,お互いを理解しようとしないから起こることだ。

 たとえば,現役時代,仕事で頭がいっぱいだった夫は,帰宅して,妻があれこれ相談や報告するのを,煩わしい思いで聴いた経験があるのではないだろうか。

 「それくらいのことは,自分で解決してくれ」

 「そんな話は聞きたくない」

 定年後,妻は夫に同じような思いを持つ。

 「私を頼りにせずに,自分のことは自分でやってね」

 そうならないためには,今から夫婦の意識のずれを調整しておく必要がある。

 今の状況は圧倒的に夫に不利である。「家庭を顧みずに,好き勝手なことをしておいて,いまさら夫婦二人で仲良くと言われても困る」式の論調が目立つ。なぜ夫ばかりが責められなければならないかと疑問に思う人もいるだろう。その理由の一つは,語らないことだ。

 女性は,時にはストレート過ぎるくらいに語る。しかし,夫の側からの不満や語りかけは,めったに聞かれない。また,弱音を吐き出すことも苦手のようだ。それは損だ。妻には,無関心か,それとも面倒なのか,あるいは男らしさの勘違いとしか受け取ってもらえない。まず,夫婦が互いに話しかけること,何でもいいから口に出して会話をすること。そうすれば,妻も夫のつらさ,苦しさを理解することができる。これが最初のウォーミングアップである。

◆熟年離婚は増えるのだろうか

 熟年離婚が話題になっている。今年の離婚率は少し減っているが,それは来年から始まる年金分割制度を待っているからだそうだ。マスコミは,熟年世代の妻たちはこぞって今にも離婚しそうな取り上げ方をしている。私のところにも,熟年離婚した夫婦を紹介してくれという依頼がきたりする(丁寧にお断りするけれど)。

 熟年離婚はそんなに増えるのだろうか。妻たちはそれほど浮ついてはいないと思う。夫の年金の半分がどの程度の金額か,気のきいた妻ならだいたい予測できる。それで生活できるのか,自分の経済的自立度がどの程度のものかも理解している。年金分割制度程度のことで,やすやすと離婚になど踏み切るはずもないのだ。

 だからといって,安心はできない。昔のように,夫婦が一生添い遂げなければならないという意識も強くはない。意味のない我慢や理不尽な状況で生きなければならないなら,離婚もやむなしとする。それには,年金分割制度が好都合なだけ。夫婦間の理解と感情の共有の欠如が問題なのであって,制度のせいではない。

 ちなみに,シニアルネサンス財団は,「熟年離婚危険度チェック」というものを,インターネット上に公開している。これで夫婦の意識のずれがどこにあるかを調べてみてはどうだろうか。

◆自立した夫婦が求める社会参加

 夫婦は理解や感情を共有しつつも,個として自立することが必要だ。それが,いい夫婦関係を保っていく秘訣となるだろう。いつも,何でも一緒では疲れる。妻も夫のアシスタントだけで終わるのは御免だ。それぞれが「生きがい」や「仲間」を持って,お互いのやっていることを尊重する。時には助言を求め,時には,誘い合って共に行動する。干渉はせずに,適度に距離を保った自立した関係。子育てからも,会社というタガからも外れ,自由な時間を手に入れた熟年世代の夫婦には,これが理想だ。

 今,米国ではHOHOというスタイルが生まれているという。HOHOとは,「His Offfice,Her Office」の略だそうだ。リタイアした夫婦が,お互いに自宅に自分のオフィスや活動拠点を持ち,それぞれに自分に適した趣味やボランティア,社会貢献,事業を行うことを指す。

 日本でも,団塊世代は,こうしたスタイルをとる夫婦が増えるだろう。無関心とは違う距離を置くことで,かえって,今まで気づかなかった意外な一面を発見し,人生の伴侶として,また,欠け替えのない友人として,新たな関係が生まれるのだ。

(文・松本すみ子=アリア/シニアライフアドバイザー)

     
 

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