松本すみ子の「定年準備講座」
 

第28回 定年前に保険を見直す <その2           2006年11月28日
 〜入りやすいより、保障内容を重視〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 前回は,団塊世代の清水敏さん(仮名,58歳)の加入例を基に,「家計の見直し相談センター」で専門家の意見を聞き,定年前の保険の見直しチェックポイントを探ってみた。医療保障を重視したいという清水さん。早めに有利な医療保険に切り替えた方がいいのではないかというアドバイスをもらい,保険の比較方法なども教えてもらった。

 さて,清水さんがもうひとつ気になるのは,最近よくきく「シニア保険」。「どなたでも入れます」,「持病があっても大丈夫」などの宣伝文句にはひかれるが,本当に“朗報”なのだろうか。前回に続き,山田FP(ファイナンシャル・プランナー)のアドバイスを交えながら,解説する。

◆「無選択型医療保険」の制約

 「シニア保険」には,終身保険,医療保険,傷害保険がある。「無選択型」とは,健康状態に問題があっても,持病があっても,告知や医者の診断なしで入れる保険。盛んにテレビなどで「誰でも入れます」と宣伝されているものだ。それまで入れなかった人たちに安心を提供するという点からいえば,意味のある保険である。ただし,保険会社は大きなリスクを背負うことになるので,いろいろな制約が設けてある。

 表4は,1日5000円制約の入院給付金をもらえる「無選択型医療保険」の例。制約で最も問題なのは,既往症の場合は契約日から2年以内の病気は保障されないことだ。加えて,新しい病気での入院や手術も契約から90日以内は保障されない。また,支払い限度日数も,通常は1入院について120日程度だが,45日あるいは60日と不利だ。保険料は60歳男性で1万円前後。清水さんが今,加入している県民共済であれば月額4000円で済むので,保険料は2倍以上と割高になる。

◆「無選択型終身保険」の制約

 一方,表5は「無選択型終身保険」の例。こちらも条件さえ満たせば,医師の審査や告知なしで加入できるが,やはり制約は多い。まず,契約から2年を経過するまでに病気で死亡した場合は,それまでに払い込んだ保険料分しか受け取れない。

 また,保険料がやはり割高。しかも終身支払いのため,加入から一定期間を過ぎると,保険料の総額が保険で保障する金額を上回る。

 たとえば,60歳男性の場合,14年を超えた時点で保険料の合計額が,病気死亡時の保険金額とトントンとなる。それ以降は,掛け金の方が多くなる計算だ。加えて,病気死亡時の保険金額は最高300万円までしか設定できないなどの条件もある。

◆「限定告知型保険」の制約

 最近は,糖尿病や高血圧症などの持病のある人が告知しても,契約直後から保障を受けられる保険が出てきた。それが「限定告知型保険」である。たとえば,「過去2年以内に入院・手術をしたことがない」,「過去5年以内に,ガンで入院・手術をしたことがない」,「今後3カ月以内に,入院・手術の予定がない」,「現時点でガンや肝硬変などと診断されていない」などという条件を満たせば,加入できる。

 ただし,表6の例を見ると,こちらの保険料は80歳払い済みとしても「無選択型保険料」よりさらに高い。「無選択型」がいいか,「限定告知型」にするか,持病持ちには判断の難しいところだ。

◆まず,一般的な保険への加入を検討する

 注意したいのは医療保険と傷害保険の違い。同じように「誰でも入れます」と宣伝しているため,混同しやすい。どちらも入院給付金は出るが,損害保険で対象になるのはケガだけで,病気による入院や手術には保険金は降りない。死亡原因にかかわらず葬祭費を支払う保険会社もあるが,たいていは死亡保険金も災害や事故以外は降りない。掛け金が安いからといって,安易に加入しない方がいいようだ。一般に,医療保険ではケガも含めて保障しているので,別途,損害保険に特に加入する必要はない。

 「無選択型」にせよ「限定告知型」にせよ,持病のある人が入るのだから,保険料が割高になるのは仕方がないことなのだろうか。山田FPは,「一般的な終身保険や医療保険でも,病気の状況に応じて,3割増しとか,5割り増しの保険料で引き受けましょうという場合もあります。2倍払うよりは得ですよね。きちんと告知したり,医者の審査を受けて,まず一般的な保険に入れるかどうかを確認してから,検討した方がいいでしょう」とアドバイスする。保険はあせらずに,じっくり選ぶことが大切なようだ。

 山田FPのアドバイスで重要だったのは,告知の書き方だ。保険会社は,告知内容を見て,加入を受け入れるかどうか,受け入れるとしても,どの程度の割増保険料で加入してもらうかという判断をする。ならば,少しでも有利になるように,書き方にもひと工夫が必要だ。

 たとえば,「現在,高血圧で薬を服用中」と単純に書くよりは,「薬を服用して何年か」,「今の血圧は以前よりどの程度下がった」とか,「今は薬の服用で落ち着いている」などと,きちんと説明すれば,それが考慮されることもある。案外,これは見落とされている点だという。

◆住宅ローンの見直しも必須事項

 さて,話は少しさかのぼるが,山田FPは,この相談の最初に,退職時の清水さんの重大な見逃しを指摘していた。それは住宅ローン。一般に,団塊世代は定年前に住宅ローンは完済していると思われがちだが,そうでもない。退職金で相当額返済するとしても,ある程度使える金額を手元に残しておきたいということで,定年後もローンを抱えたままの人も少なくない。清水さんも,その一人だ。

 山田FPは「会社を辞める前に,この住宅ローンをもっと金利の安いローンに借り替えておくべきでしたね」と指摘する。沼田さんが借りているローンの金利は4.0%。ここ数年は固定でも2.0%程度と低い金利のものがある。それに借り替えておけば,総支払額は数百万円程度減ったのではないかという。

 開業してすぐに住宅ローンを組むことは難しい。金融機関は,独立3年以上,しかも毎年黒字といった条件をクリアしないと借り換えにも応じてはくれない。清水さんの場合は,すでに辞めてしまったので,この段階ではどうしようもないのである。できるだけ早く完済したい場合は,繰上げ返済という道をとるしかないようだ。

 保険の仕組みを理解し,自分にあった保険を選ぶのは難しい。山田FPは「一度は専門家に相談することをおすすめします。それも,一人ではなく,ぜひ,奥さんと相談に来てほしい。定年後の生活設計には,保険だけでなく,家計全般や住宅などのローン,資産の運用なども含めた総合的な診断が必要です。奥様と一緒にじっくり取り組んでもらいたいのです」と語っている。

 また,家族全体を考えたときに,子供たちの保険も見直した方がいいというのが,山田FPのアドバイスだ。「若い世代はこれから長い間保険料を支払い続けますが,定年と同時に払い込み満了の保険を選べば,定年後の経費を減らすことができます。親御さんには,若い世代にもそうした助言をしてほしいですね」。

 ちなみに,山田FPが相談に乗ってくれる「家計の見直し相談センター」の相談料は,1件につき1万円程度から。他の相談所もほぼ同じような金額だ。これで,定年後の安心を得られるなら安いものかもしれない。

(松本すみ子=アリア/シニアライフアドバイザー)

     
 

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