松本すみ子の「定年準備講座」
 

第27回 定年前に保険を見直す <その1           2006年11月21日
 〜保険は人生設計の重要なファクター〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 定年前にやっておくことはいろいろある。会社を辞めてしまってから,「しまった!」ということのないように準備しておきたいもの。その大事なことのひとつが保険の見直しである。

 この先,収入がなくなることや医療費が増えることを考え,できるだけ有利な保険への切り替えを検討する必要がある。しかし,種類の同じ保険でも,会社によって加入条件や保障内容が少しずつ異なり,パンフレットを取り寄せて検討してみても,どれがいいのか,なかなかわかりにくい。

 今回は,同じ悩みを持つ団塊世代の清水敏さん(仮名,58歳)と共に,東京・五反田にある「家計の見直し相談センター」を訪問。清水さんの加入例を元に専門家の意見を聞き,定年前の保険の見直しチェックポイントを探ってみた。

◆高額な生命保険をどうする?

 実は,清水さん,2005年4月に早期退職して自営業となった。その際,新聞や雑誌などで得た情報と自分なりに勉強した知識を基に,保険の見直しを行っている。清水さんが採った方法とは,今までの定期付終身保険を解約して,自宅のある県の県民共済保険に加入することだった。

 「これからは夫婦二人の生活ですから,もう高額な死亡保険は必要ないと思いました。共済保険は手ごろな掛け金で,死亡や後遺障害,入院・手術・通院など必要な保障がすべて揃っていました。それで,妻と二人でそれぞれ毎月の掛金4000円コースに加入することにしたのです」。それまで支払っていた保険料は3万円以上。しばらくは収入が不安定になることを考えると,二人合わせて8000円の掛け金で済む共済保険は魅力だった。(表1:共済保険の例)

◆死亡保険は葬式代程度でいい?

 清水さんがいうように,子供がひとり立ちした後は,万一の場合の生活を支える高額な死亡保険の掛金は見直し,減額した分を貯蓄などにまわした方がいいといわれている。

 清水さんも,今後の死亡保障は葬式代程度でいいのではないかと思った。それよりも大事なのは医療保障だ。治療代で貯金を取り崩したくないので,1日1万円程度の入院給付金は確保したい。共済保険の場合は,それも9000円とまずまずの金額だった。

 しかし,この保障内容を見た奥さんから「60歳を過ぎたら保障額が少なくなるようだけど,大丈夫?」と質問された。確かに,これも気になっていた。共済保険では,60歳になると1000円コースにしか入れない。それだと,肝心の入院1日当たりの給付額はたったの2250円。それも65歳で打ち切りだ。

 ただ,共済保険には別に「熟年型共済」が用意されていて,そちらに切り替えれば85歳まで保障される。その場合は1日5000円の入院給付。ならば大丈夫と判断したのだ。とはいえ,奥さんから質問されて以来,なんとなく不安になってしまった清水さん。今回の相談はいい機会となった。

◆医療保障はどのくらい必要か

 担当してくれたのは,「家計の見直し相談センター」のファイナンシャルプランナー・山田和弘さん(以下,山田FP。まず,年齢,家族構成,住宅ローンの有無,その残額と期間,いつまで働きたいかなどを質問される。どのくらいの保障が必要かということは,個々の人生設計と深くかかわるからだ。

清水さんは県民共済に変えてよかったのだろうか。

 山田FPは「共済保険はベースがしっかりした保険との組み合わせ商品と考えるべきです。掛金が安いことについ目を奪われがちですが,熟年共済にしても70歳以降は1日2,500円の入院給付。80歳以降は病気による入院給付金がゼロになってしまいます。長生きして,これから医療費が不可欠という時期に,保障がなくなるというのは問題です」と指摘する。どうやら,当面はいいとしても老後に不安ありのようだ。

 「保険を選ぶ前に,まず医療保障がいくら必要なのかを考えてみましょう。たとえば,治療や入院で100万円かかったとします。医療費の個人負担は3割なので30万円と思うかもしれませんが,実際にはこの金額を払う必要はありません。健康保険には高額医療費制度というものがあるからです」。

 高額医療費制度とは,同じ病院や診療所で支払った1カ月の医療費が8万100円を超える場合,超えた金額が戻ってくるというもの。正確には,70歳未満の場合「8万100円+(総医療費から26万7000円を引いた額)の1%」となる。

 1回の標準的な手術や入院費は,急性心筋梗塞の場合が220万円,脳梗塞や胃がんは120万円といわれている。もちろん,これにも適用される。ただし,制度を利用するには,病院などの領収書・印鑑・保険証・預金通帳を添えて,個々の加入している健康保険組合に申請する必要がある。

 そういうことであれば,高額な医療保障費は必要ないということだ。しかし,個室や少人数の部屋に入りたいとなれば差額ベッド代がかかる。山田FPの手元には,全国有名病院の差額ベッド代一覧があった。それによれば,1日数千円から10数万円と,病院と病室のタイプによって大きな幅があることがわかる。入院生活もお金次第なのである。

 また,個室はいらない,大部屋でいいと割り切ったとしても,入院には食費,家族の交通費,身の回りの品など思わぬ出費がある。さらに,病気によっては保険の対象外となる先進医療を受ける必要が出てくるかもしれない。このあたりを考慮して,最低1日1万円の入院給付金は確保しておきたいというのが,清水さんの結論だ。

◆定期医療保険更新型の具体例

 山田FPは「もし,30代で加入した終身保険がそのままであれば,それは絶対に解約してはいけません」と強調する。満期保険金や保障は,その頃の保険商品が最も有利なのだそうだ。ただし,途中で新しい保険に切り替えたものは該当しない。清水さんが解約した保険も10年前に切り替えたそうだから,それほど有利ではなかっただろうとのことだった。

 では,清水さんにおすすめの保険とはどういうものなのだろう。医療保障という点からいえば,今の県民共済保険を早めに有利な医療保険に切り替えた方がいいのではないかというのが,山田FPのアドバイスだ。

 医療保険には,定期医療保険と終身医療保険がある。定期医療保険とは10年満期のように期間を限定し,期限が来たら更新するタイプのものだ。ただし,更新時には10歳年齢が増えているので,掛金も高くなる(表2:定期医療保険更新型の例 58歳加入)。

◆終身医療保険の具体例

 終身医療保険には,70歳や75歳で払込を完了して終身受け取るタイプと,生きている限り払い込んで一生涯保障してもらうタイプがある(表3:終身医療保険の例 58歳加入)。掛け金は加入時の金額がそのまま続く。

 選ぶポイントは,総支払額と予想される給付金との差額。それが少なければ少ないほど有利ということになる。たとえば,終身医療保険(表3)の70歳払込満了で比較してみよう。A社の保険は月額1万9800円なので,70歳までの12年間に総額285万1200円を支払うことになる。一方,E社の掛金は3万4690円。総額499万5360円だ。一見,A社の方が掛金が安くて有利なようだが,そうでもない。

◆保険は長い目でみて損得を判断すべし

 E社の保険には80歳時の例として,死亡保険金314万円がついている。亡くならない人はいないので,これは必ず戻ってくる金額。であれば,約500万円から314万円を引くと186万円。実際には,この金額を支払っただけということになる。さらに,この間,150日程度の入院をして,手術給付金をもらうようなことがあれば,ほぼ元を取ることができる。A社の保険は,死亡保険金がないので,250日以上入院して手術給付金をもらわないと元は取れないことになる。

 同じように,終身型は毎月の掛金が安いが,こちらは長生きすればするほど,掛金は膨らむことになる。山田FPによれば,損益分岐点は78歳くらいだろうということだった。長生きする自信のある人は,掛金は多くても払込期限があり,死亡保険金が出る保険に入った方が得なのだ。人生は計算どおりにはいかないが,目先の金額の安さに惑わされることなく,長い目で見て保険を選択する必要がありそうだ。

 清水さんは,山田FPからもらった資料と自分の人生設計とを合わせて,じっくり考えてみようという気になったようだ。

 次回は,シニア向け医療保険はどうなのか,また,子供に伝えたい保険の有利なかけ方,住宅ローンなどについても検討する。

(松本すみ子=アリア/シニアライフアドバイザー)

     
 

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