松本すみ子の「定年準備講座」
 

第25回 セカンドライフの住まいをどうする? <その1>           2006年9月19日
 〜この際、思い切って住み替えるか〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 子供が独立して,夫婦二人の生活に戻るセカンドステージ。見渡してみれば,部屋数はあるものの使い勝手のよくない間取り。あちこち傷み出している建物,家具。しばらくは大丈夫としても,いよいよ年を取ったとき,果たして,この家で暮らし続け,一生を終えることができるのだろうか。さらに,老いた親との同居も考えなければならないとしたら...。

 こうした状況は,多かれ少なかれ,たいていの人にやって来る。世間が思うほど,穏やかなセカンドライフの実現はたやすくない。しかし,昔と違って,住まいや住まい方に関する新しい動きやサービスが生まれているのも事実。今,セカンドライフの住まいに,どんな動きがあるのか,これを2回にわたって探ってみることにした。

 今回は,「思い切って,住み替え!」の場合。

◆付き合いと冠婚葬祭を甘く見るな!

定年後の住み替えといえば,真っ先に思い浮かぶのが,田舎暮らしに,Uターン,Iターン,Jターンという言葉だ。説明するまでもなく,Uターンは自分の故郷に戻ること,Iターンは都会で暮らしていた人たちが,出身地に関係なく,田舎のライフスタイルを求めて移ってくること。では,Jターンとは? いったん都会に出た人が,出身地の近隣地域に戻ることである。

 UとJとでは田舎に戻ることには変わりがないようだが,実は大違いである。Uターンの場合は,実家に戻るようなものだから,近所に親戚も知り合いもたくさんいるはず。この付き合いが,意外に大変なのだ。特に,夫の実家が近い場合,田舎の人間関係に慣れていない妻にとっては苦労のタネ。これが原因で夫婦の間に亀裂が入り,リタイア後の生活の土台が崩れては何にもならない。

 以前,町を上げて民宿を展開していくので,モニターしてほしいという依頼があり,沖縄・宮古島のある町に出かけたことがあった。夜,民宿先のご主人や奥さんと話していて,この一見ゆったりした島の付き合いが,いかに大変なものかを知った。

 例えば,このお宅は,民宿を始めるために家を建て直した。その新築祝いには,遠くの親戚から近所の知り合いまで,なんと350名も集まり,宴会は3日3晩続いたそうだ。

 ご主人曰く「10万円でできる田舎暮らしなんていう番組もあるけど,確かに,生活は10万円でできるかもしれない。でも,冠婚葬祭費用を忘れてるよ」。宮古島ほどではないにしても,田舎にはまだこれに似た状況が残っている。それが,いいところだといえば,そうなのだが,実行に当たっては,十分に奥さんと話し合う必要があるだろう。

◆おすすめはUターンよりもJターン

 そんなことからも,今後,田舎暮らしに最も適したのはJターンではないかと思う。

 まったく知らない土地に住むのも不安だが,その点,故郷の近くなら土地勘もある。実家とは適度に距離を保った近隣地区に住めば,親戚との付き合いもほどほどに,長いお付き合いができる。定年後の移住は,何より“自分たちの生活を楽しむ”ことが実現できなければ意味がないのだ。

 Jターンだから,土地のことはある程度知っていると油断するのも禁物。田舎もどんどん変わっている。移住してから,こんなつもりではなかったということのないように,十分な事前調査が必要だ。

 幸い,今では「体験移住」や「プチ移住」といったお試し移住制度を用意している自治体が多い。旅行のつもりで,こういうツアーに参加してみるのもいいのではないだろうか。県や市のホームページには,そういう情報が必ず掲載されている。見当たらなかったら,電話して聞いてみることだ。

 移住セミナーや「体験移住」をいち早く,積極的に展開してきたのが北海道の各自治体である。その中でも人気が高いのは,室蘭の近くにある伊達市。99年以降,約1800人が移住している。

 人気の理由のひとつは,伊達市では冬でも比較的気候が温暖で,雪が少ないこと。札幌にも近いこと。官民一体となった街づくりや誘致策が功を奏していることは,もちろんだ。今後は,数カ月から半年程度の長期滞在型体験プログラムも提供していくという。

 今年の夏,私も,北海道のいくつかの自治体が共同で開催した「北海道移住・ロングステイセミナー」に参加してみた。江差,白老,東川町,中頓別町などが参加し,それは熱心に担当者がPRをしていた。

 こうしたセミナーでは,実際に,その町に移住した人が体験談を話すことが多い。せっかくセミナーに参加したのだから,町の職員もいいが,こちらの市民スピーカーにも積極的に声をかけてみよう。その場で長い話はできないが,ひと言,ふた言会話を交わし,名刺交換くらいはできる。一度,名刺交換さえしておけば,後でコンタクトも取りやすい。

◆仲間を募り,共同で造るシニアマンション

 最後に,自分たちの手でシニアマンションを建築しようと取り組んでいるグループを紹介しよう。

 千葉県我孫子市に住む今美利隆さん(55歳)と久美子さん夫妻は,4年前に,新しい終の住み家を造るための「シニア村」の活動を立ち上げた。二人が目指しているのは,手作り(コーポラティブ方式)のマンション。メンバーを募り,お互いに出資し合って建築する,リーズナブルな共同住宅だ。

 この4年間,興味をもってくれた人たちへの説明会,勉強会を開き,土地の手当て,どんな建物にするか,高齢者サービスはどうするか,建設費をどのくらいに設定するかなどを話し合ってきた。そして,趣旨に賛同してくれる22世帯を確保。土地を茨城県龍ヶ崎市に求め,5月には建設組合を結成,マンションの完成予定図もできあがった。2007年の完成を目指して,最終段階に入っている。

 資料を見ると,シニア村に参加した人たちの事情は,大きく次のように分けられる。

・夫婦二人で子供がいない。子供はいるが,一緒に暮らすつもりも,面倒を見てもらうつもりもない
・夫に先立たれて一人住まいの女性。子供をあてにしていない。あるいは独身の女性
・障害を持っている。体が不自由で車椅子を使用している
・有料老人ホームは,入居金,維持管理費が高くて,手が出ない

 個人が草の根的に取り組むには,荷が重すぎるような課題に取り組んでいる。それでも,着実に実現に向かっている。行政も住宅開発メーカーも,個人がなぜ,このような活動を始める必要があったのか,利用者は何を求めているのかを真摯に知るべきだろう。そして,当事者である私たちも,行政やデベロッパーに任せておかず,やればできるということを学ぶことができる。

 今美さんの取り組みに関しては,今後,セカンドステージの「人生設計 本当にやりたい仕事」で詳しく紹介する予定だ。

(松本すみ子=アリア/シニアライフアドバイザー)

     
 

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