松本すみ子の「定年準備講座」
 

第20回 今から始めるスポーツ <その2>        2006年6月27日
 〜楽しみながら健康づくり、社会貢献〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 前回は,「運動,運動」と気負うことなく,体を動かすきっかけになるようなスポーツを中心に紹介した。スポーツには体力づくりだけでなく,さまざまな効果がある。適度に汗をかくことで,気持ちがリフレッシュし,毎日の単調な生活にも張りができる。

 さらに,今までとは異なる世界の仲間ができ,地域デビューもスムーズになる。中にはボランティアとしての活躍する人や,好きが高じて起業してしまった人もいる。今回は,スポーツを通じて,自分なりの方法で新しい世界を造り上げた先輩たちに話を聞いてみた。

◆体力をつけたくて、50歳からテニス

 根立徹三さん(64歳)がテニスを始めたのは,ちょうど50歳の時。証券会社で働いていたため,“7‐11(セブン・イレブン)”の勤務時間は当たり前。毎日が午前様で,運動とは程遠い生活だった。そんなある日,会社の健康診断でひっかかる。しかも,根立さんには喘息の持病があった。

 根立さんは,喘息は“一生もの”なので,仕方がないと考えていた。スピードスケートの清水宏保さんが喘息持ちであることはよく知られている。インタビューで「喘息と付き合っている」と語っているように,喘息は完治が難しい病気。薬が欠かせない。根立さんは,さらに健康の不安も抱えてしまった。「このまま歳をとったら,どうなるのか。体力をつけて,体質を変えなければ」と,切実に思った。「それには,運動が必要だ!」

 今まで運動といえば,仕事上の付き合いのゴルフだけ。何をしたらいいのだろう。前からテニスを楽しんでいた奥さんが提案した。「夫婦で一緒に楽しめたらいいわね」。幸い,テニススクールが自宅のそばにあった。こうして,週に2回,根立さんのテニススクール通いが始まった。

 「ところが,今まで運動らしいものをしてないし,まして,テニスなんかやったことがない。だから,まったく上達しないんです。最初の半年くらいは,ただ叱咤激励されるために通っていたようなものでした」。しかし,根立さんはあきらめなかった。2年間,ひたすらスクールに通った。その間,奥さんが会員になっているテニスサークルにも参加した。「でも,うまい人ばかりで,なかなか相手をしてくれないんですよ。下手なのとやっても,面白くないんですね」。

◆仲間づきあいがスポーツをさらに楽しくする

 そんな根立さんを救った人たちがいた。すでに定年を迎えていたテニス愛好家の面々である。テニスが大好きで,“テニスコートにご出勤”という人もいるほど。この人たちが「面倒見てやるよ」とばかりに,特訓をしてくれたのだ。

 時には,出勤前の早朝から付き合ってくれた人もいた。「この方々の励ましや協力がなければ,続かなかったかもしれません」。喘息は治ったわけではないが,おかげで体力もついた。

 さらに,違う楽しみが見つかった。練習や試合後のコミュニケーションである。現役時代は,それなりの役職と仕事についていた仲間たち。その体験談では,目からうろこの面白い話がどんどん出てくる。ついには,あるメンバーが現役時代に赴任していたというタイの砂糖工場見学ツアーまで実現したほどだ。

 今,根立さんのテニス歴は10数年を数える。その間,自身も定年を経験したが,定年後の生活はそれほど恐れるものではなかった。それは,テニスを続けていたから,テニス仲間がいたからという要素も大きい。今年,テニスサークルの会長に就任した。テニスとは長い付き合いになりそうである。

 病気があるからといって,スポーツができないということではない。根立さんのように,健康になりたいという気持ちと,それを支える家族,一緒に楽しめる仲間がいれば,十分楽しむことができる。「一病息災」という言葉があるように,用心しているからこそ,むしろ,過信して無茶をするようなことはしない。中高年には,中高年の体力に合った楽しみ方があるのだ。

◆求む!スポーツでボランティアができる人

今,各方面で,団塊/シニア世代の力が求められているように,スポーツの世界でも,中高年の力を活用したいという動きが生まれている。「リタイア後の団塊世代には,ぜひ,ダイビングを楽しんでほしい」と呼びかけるのは,椎名勝巳さん(72歳)。東京都杉並区で「東京ダイバーズ」というダイビングスクールを経営している。

 東京ダイバーズが注目されているのは,障害者や高齢者のダイバーを積極的に受け入れていることだ。水中では体にかかる負担が少なくなるので,陸上よりも楽に動ける。きちんとした講習とサポートを受ければ,高齢者や障害者でも楽しめるスポーツだという。

 ダイバーになるには,ダイビングスクールなどで一定の講習を受け,「Cカード」という証明書を取得することが必要。「Cカード」はダイバーであることの証しで,これがないと,ダイビングの申し込みはもちろん,空気タンク,ウエイトなどの器材を借りこともできない。

 椎名さんは,45歳以上の人には,受講の前にチェックシートに自分の健康状態を記入し,医師の健康診断を受けてもらうことを義務付けている。こうして誕生したダイバーは,何度もダイビングの経験を重ねて一人前になっていく。椎名さんによれば,20回くらい経験すれば,とりあえず一人前とのことだった。

 ちなみに,6月に開催した奄美や座間味のダイビングツアーに参加した人の年齢は,すべて60歳以上。中には,80歳の女性もいた。高齢者だけではない。ハンディキャップダイバーという人たちもいる。車椅子を使っている人は,車椅子に乗ったまま海に潜ることもできる。

 こうしたダイビングツアーには,サポートサイバーが不可欠だ。サポートダイバーの育成はダイバー育成指導機関で,ダイバーに不可欠な「Cカード」を発行しているPADIが行っている。車椅子ダイバー対応,片マヒダイバー対応,脳性マヒ対応の3つのプログラムがあり,PADIが一定以上の経験と技能を持ったダイバーとして認定された人が受講できるのだ。

 椎名さんが期待するのは,地上とは異質の世界である海の素晴らしさを,一人でも多くの人に知ってもらいたいということだけではない。まだ元気な団塊世代がダイバーになって,ゆくゆくはサポートダイバーとして活躍してほしいということなのだ。

◆「健康のため」だけではつまらない

以前,団塊消費動向研究所に書いた「団塊世代とスポーツ(1)」に,こんなコメントを寄せてくれた人がいる。

 「私も昭和22年生まれの団塊の世代。同年代の友人と話すと,確かに凄い運動熱。マラソン,カヌー,水泳,ジョッギング,自転車,テニスなどなど。動機は『生活習慣病予防』がほとんどで,これ自体は有意義だし賛成。ただ,今年前半に生活習慣の大病を患った私の経験でみると,『社会参加,社会貢献』という意識が不明確な,個人的趣味の領域を出ない健康法だと,もし,飽きる,ケガをするなど何かのキッカケでその運動の継続が難しくなると,心の拠り所を失い,一気に老け込むような気がします。今までお世話になった社会,個人に恩返ししようとする謙虚で積極的な心根が,実は老後の健康維持にとって最大の基礎条件なのではないでしょうか?」

 今後,スポーツ熱が高まるに連れて,中高年にもスポーツの分野でボランティアや指導員を目指す人が増えるだろう。「日本ウォーキング協会」は,ウォーキングの正しい普及を目指し「ウォーキング指導員」という制度を,2006年から始めた。誰でも講習を受け,一定の条件をクリアすれば,「ウォーキング指導員」を委嘱され,ウォーキングの指導を行うことができる。まさに,団塊世代にぴったり。一石二鳥のボランティアだ。

 なお,中高年でも取れるスポーツ指導員資格については,「団塊世代とスポーツ(2)」でも触れたので,参照してほしい。

(松本すみ子=アリア/シニアライフアドバイザー)

     
 

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