松本すみ子の「定年準備講座」
 

第9回 地域に戻る <その1>        2006年1月17日
       〜お父さん、お帰りなさい!〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 起きている時間の大半を過ごす場所を「居場所」というならば,間違いなく「会社」だ。しかし,定年やリタイヤとともに,それはなくなる。代わりに居場所となるのは,名実ともに自宅であり,活動の場所はその周辺地域となる。それならば,今からどんなところかじっくり探ってみるのも面白いのではないだろうか。思わぬ発見があれば,しめたものだ。

 地域には,今や手ぐすねを引いて,リタイア世代を活用したいと待っている自治体やグループがたくさんある。リタイア世代にとって地域は,今までのように単なる生活の場所ではなく,生きがい発見や自己実現,活動の場として,たいへん魅力的な場所となりつつあるのだ。

◆地域はあなたを待っている

 2007年問題などといわれ,団塊世代の大量定年の話題にはあまりいいイメージがなかった。退職者が地域に大量に戻ってくるということは,高齢者が増えて町に活気がなくなると考えられているからだ。税収が減少するのに,社会福祉費用が増えるので,東京でいえば,世田谷や杉並,中野などのような住宅地区では,その対策に苦慮。交通機関やオフィススペース,飲食店などへも影響が出る。問題点が山積みのように言われていた。

 リタイアする側も,地域に戻ることに,なんとなく不安を覚えている。住んでいながら,その地域のことはほとんど知らない,あまり親しい友人もいない,しかも,年寄り扱いされて,お荷物のように見られるのではないかという危惧があるからだ。

 しかし,最近は,地域側の認識が変わってきた。団塊世代は意外に若く元気であり,今まで培った経験や能力は大いに活用の余地がある。今までは寝に帰ってくるだけの「パートタイム市民」だったが,これからは「フルタイム市民」となる。すばらしい人材が常駐するのだから,その力を町づくりや町の活性化に役立てない手はないというのである。ウェルカムなのだ。

◆お父さん、お帰りなさいパーティー

 そうはいっても,突然もどってきて,すんなり地域に溶け込める人は少ない。そこで,そんな人へのサポート・プログラムが各地で開催されるようになっている。部下や仲間の前では威勢のいいお父さんたちも,未知の世界では意外に人見知りで,シャイであることは,とっくにお見通しなのである。

 ユニークな例を一つ紹介しよう。ボランティアセンター武蔵野(東京都武蔵野市)の「お父さん帰りなさいパーティ(略称,おとぱ)」である。

 このパーティでは,会場にブースを設け,市内で活動する様々なNPOや市民団体に出展してもらう。参加者は自分に合う活動をしていると思うブースを回りながら,今後の生きがいや活動を探すという仕組みだ。

 もちろん,説明会のあとは仲間作りのための懇親パーティがある。“お父さん”とあるが,女性も参加できる。2000年からスタートして,毎年1回開催し,昨年6回目を数えた。団塊世代の定年退職を控え,年に一度では間に合わなくなるためか,2005年からは,誰でも参加できる少人数の「おとぱサロン」も始めた。

 シニア向けのボランティア・市民活動講座なども,各地で盛んに行われている。今住んでいる自治体や周辺地域でも,たぶん何らかの取り組みが行われているはずだ。興味があれば,自治体の窓口や社会福祉事務所などに問い合わせてみてはどうだろうか。

◆地域での仲間づくりのコツ

 地域に仲間を作れるかどうかは,豊かな第2の人生を送れるかどうかの重要なポイント。その突破口の第一は,妻にある。

 女性は専業主婦であれ,共働き主婦であれ,子供や趣味を通して,地域に友人を作って活動している人が多い。また,女性は一般的に,すぐに親しくなれるという特技がある。妻を橋渡しとして,地域に入り込むのである。妻に弱みを見せたくないなどという見栄は,もはや何の役にも立たない。ここで捨てさる決断をしよう。

 同じ世代の仲間が後押しする例もある。「新現役の会」は,「地域に支部を開設し『新現役の会』の支部を立ち上げませんか」という取り組みを行っている。自分や仲間とやることが決まったら,会は卒業となる。あくまでも,仲間や情報を得るためのマッチング・サロンという位置づけだ。

 もうひとつ。地域での仲間作りにもっとも効果的なのは,住んでいる地域の自治会やマンション管理組合の運営に参加することである。ところが,わがマンションを例に取ると,現役世代の男性の参加はほとんどない。どうやら,奥さんに押し付けて,逃げているらしい。奥さんの方はますます交友の輪が広がる。

 これは,もったいないことである。せっかくの機会を逃している。仕事が忙しくてそれどころではない,面倒なことは避けたいという気持ちが働くらしい。総じて,仕事以外のことにはタッチしたがらないという傾向があるのは残念だ。

 それを見事にあらわした数字がある。足立区が区内の団塊世代に向けて「団塊シニアのための粋な人生設計講座〜地域で何かはじめませんか〜」というプログラムを展開しており,その中で出てきた数字だ。このプログラムは2月下旬まで展開している。筆者は,最初の公開講座でお話をさせてもらったのだが,その準備資料として区内の団塊世代600人強に行ったアンケートを見せてもらった。そして,この数字で「ああ,やっぱり」と思ったものだ。

 「地元の町会・自治会に参加していますか」という質問には,約77%が加入していると答えている。では,かかわり方はどの程度かと聞くと,「掃除などの当番だけはやる」,「ほとんど参加しないを合わせた割合は44%もある。そのほか,無回答が22%もあり,たぶん,この中には「ほとんど参加しない」が相当数含まれているだろう。また,「町会・自治会の役員,民生委員,保護司など」をやってみたいかという質問には,57%が「やってみたいとは思わない」と答えている。

 しつこく言うが,実にもったいないことである。こういう場で出会った仲間は,何かと役に立つことが多い。そして,少しでも早く,少しでも多く,地域の知り合いを作っておいた方がいいのだ。普段は簡単な挨拶をする程度でもかまわない。そんな仲間がいるというだけでも,地域での暮らしへのランディングがどれだけ気楽になるかしれないのだ。

◆活動や生きがいをみつけるコツ

 地域で生きがいや活動をしたいことを見つけるのは,比較的簡単である。なぜなら,地域にはいろいろな問題も可能性もたくさんあるからだ。それは,そこに住む自分自身と直接かかわることだったりする。今まで,それに気づかなかったのは,関心が会社や仕事にばかり向いて,見えていなかったからだ。まず,自分の周りを見渡してみたい。これから居場所に定めた場所だと思えば,こうしたい,こうなってほしいということが見えるようになってくる。

 自分の住む地域にはどんな人が住んでいて,どんな市民生活が送られているか。行政の取り組みや対応はどうか。どんな魅力や問題があるのか。そもそも,この地域は元気なのか。どれもほとんど知らないことばかりではないだろうか。好奇心を持ってみれば,地域は今までと違ったものに見えてくる。

 すると,すでに,そのことに取り組んでいる先輩や仲間がいりことも分かったりする。思い切って,その仲間に入ってみるのが次のステップだ。

 しかし,まだ誰も手がけてないいことかもしれない。それだったら,もっとラッキー。自分が先駆者になって,仲間を募ればいい。おそらく同好の士はすぐに見つかるだろう。なぜなら,団塊世代はあちこちで,同じように自分の興味ある活動を見つけたいと探しているからだ。

(松本すみ子=アリア/シニアライフアドバイザー)

     
 

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