松本すみ子の「定年準備講座」
 

第8回 家族の絆を見つめ直す <その2>        2005年12月20日
       〜団塊世代の家族の行方〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 前回は,団塊世代はどのように家族をつくり,どんな夫と妻になったかということを振り返ってみた。今回は,本音の部分に触れてみたい。

 家族とは自分にとって何だったのか,パートナーとの第2の人生をどう過ごしたいのか,そして,子供や親とはどう接していったらいいのか。 第2の人生がこれから始まるように,家族との関係も次のステップに入る。これからの20年で,より強い絆と新たな関係を築くこともできるだろう。そうする時間は十分残されている。

◆妻には言えない...

 妻の夫への言い分としては,前回,「夫よ!あなたがいちばんストレスです」という本を紹介した。このように妻からの主張を著したものは案外多い。

 では,夫は妻をどう思っているのか。それを書いたものはないのだろうか。捜してみたら,「妻には,言えない…。」(吉村和久著,主婦の友社)という本が見つかった。30代〜50代の夫43人に取材して,その心の内をルポしたものだ。

 副題には「なぜ夫たちは,だまってしまうのか。沈黙の裏で,どんな言葉をのみこんでいるのか」とある。「妻からの心離れ」,「男たちの更年期」,「妻を失うことを恐れるとき」,「夫が男に戻るとき」,「夫が悩む妻との理想の関係」など,普段は表面に出てこない“男の心情”が書かれていて,なかなか興味深い。

 これを妻たちが読んだら,妻の言葉や態度に傷つく意外な脆さ,取り繕っている顔の下に抱えている複雑な気持ちを知って驚くに違いない。“目からうろこ”というところだろう。

 ところで,この本は月刊女性誌『my40’s』の連載をまとめたものだ。結果として,男の気持ちを語るものになったけれど,もともとは女性の側から,夫が何を考えているのかわからない,夫の気持ちを知りたいというアプローチがあって生まれている。夫の側から,意図して妻に語りかけたものではない。不思議なことに,妻にこれだけは言いたい,あるいは,妻が何を思っているのかを知りたいという内容の本は見つけることができなかった。

 本の冒頭に書いてある「夫にも妻にもお互いに言えないことがある。しかし,夫の方がそれを吐き出す機会が少ないのではないか」,そして,「取材しなければ,辛かったことを辛いと,苦しかったことを苦しいと言うことは決してなかっただろう」という部分は,恐らく正しいのだろう。一方で,夫が「男として恥ずかしいから,情けないと思われたくないから」という思いで自分を縛ってしまっていることも事実である。そして,妻への無関心も問題だ。

◆家族は安らぎの場所だったのか

 「帰宅恐怖症」という症状があるそうだ。好きな女性ができたわけでもなく,妻が嫌いになったわけでもない。子供たちとも何の問題もない。なのに,「帰ってきて自宅のドアノブに手をかけたとたん頭が痛くなる」のだそうだ。その人にとって,家族はひたすら支えるものであって,支えあうものではなかったのかもしれない。家族や家庭を安らげる場所にできなかったということだ。

 現代は,昔のように一生懸命働けば認められる社会ではなくなってきた。激化する競争社会,終身雇用の崩壊,成果主義の導入,組織のフラット化,リストラという名の解雇。サラリーマンは厳しい状況におかれている。

 特に,定年前後は今まで頼っていた規範や存在意義を失うことで,人生で最も精神的に不安定になる時期だ。何気ない顔をしているが,頭の中では,「これから,どうしたらいいか」という問いが渦巻いていたりする。虚勢を張って自分を保っていられる時代ではないのだ。

 これからは,夫も本音で語ること,“辛い,しんどい”という一言を発することが大事だ。もちろん,妻も夫の状態をそれとなく見守る必要がある。夫への不満を並べながら,夫のそうした心理に無関心な妻もいる。しかし,たいていの妻は夫の心の内を知りたがっているし,支えたいとも思っているのではないだろうか。

 中高年の再就職支援講座を担当した知人から聞いた話だ。ある日,奥さんに手紙を書いてもらうという宿題を出した。手紙は封をしてあり,夫は講座の中で初めて開いて読む。ほとんどの手紙は,夫の境遇や心理状態を思いやり,励ます内容だったという。手紙を読んで,涙を流す人もいた。そして,家族のために,もう一度がんばろうという気になるのだそうだ。お互いの率直な気持ちの吐露が理解を深める原点となる。

◆妻は本当に離婚を考えているのか

 最近よく話題になるのが「熟年離婚」である。確かに,平成16年の厚生労働省人口動態統計をみると,離婚件数27万件のうち,同居が20年以上の「熟年離婚」は15,5%も占めている。平成19年4月からは,離婚した場合,夫の年金を2分の1まで受け取れる「年金分割」制度が始まることもあり,今にも,妻たちはこぞって離婚に突き進むような取り上げ方をされている。しかし,本当にそうなのだろうか。

 次の表1は,調査会社マーシュの協力を得て,団塊世代の夫を持つ妻500人に聞いたアンケートの一部だ。「夫のリタイア後,あなたはどんな人生を送りたいですか」という質問では,「別居や離婚を考えている」という妻は18人(3.6%)だった。3.6%しかいないと受け取るべきか,18人もいるではないかと受け取るべきか,難しいところ。しかし,「夫婦二人でのんびり過ごしたい」と答えている人が半数近くいることにも注目したい。妻たちの多くは,この先も夫との生活を大事にしたいと思っているのだ。

【表1】リタイア後の夫との人生

Q1.
夫のリタイア後,あなたはどんな人生を送りたいですか。
人数
夫婦二人でのんびり過ごしたい 246 49.2
主婦業を卒業して,自分の好きなことをしたい 139 27.8
働いて,自分の収入を得たい 68 13.6
別居や離婚を考えている 18 3.6
その他 29 5.8
集計数 500 100.0

 ただし,表2にあるように,「年金分割制度」への関心は高い。妻は万一の場合にそなえて,ちゃんと勉強している。今までと同じように,無関心,本音のない会話,虚勢や独りよがりの態度を続けていくなら,やはり要注意である。

【表2】年金分割制度への関心度

Q2.
サラリーマンと離婚した妻が,夫の年金を分割して受け取れる仕組みが2007年度から導入されます。この情報は,あなたにとって,以下のどれに一番近いですか?
人数
非常に関心があり,内容までよく知っている 33 6.6
おおよそ知っている 256 51.2
情報は聞いたことがあるが,内容は知らない 129 25.8
知らなかった 44 8.8
興味がない 38 7.6
集計数 500 100.0

 最後に,自分が妻にどう思われているかを調べるために,シニアルネサンス財団の「熟年離婚・危険度チェック」を紹介する。夫用,妻用と2種類あり,年代によっても判定が異なる。結果に,愕然とするか,安心するか。不安な人は当然,わが家は大丈夫と思っている人も,試してみてはどうだろうか。

◆これから先、親と子供をどうするか

 先にも述べたが,団塊世代は大学入学や就職で田舎を離れた人が多い。親の世代も長寿なので,田舎には年老いた親が住んでいる。まだ元気だとしても,この先病気や介護状態になったときに,どうしたらいいのだろうと思っている人は多いはずだ。この世代に増えているのは「遠距離介護」である。親の介護で仕事を辞めるわけにはいかないので,普段はヘルパーなどを頼み,週末に親元に帰って介護をする。

 親と同居していれば在宅介護ということもある。いずれにしろ,大切なのは夫婦の連携と思いやりだ。また「離婚」の話で恐縮だが,「介護離婚」という状況があると聞いた。介護している妻への感謝やねぎらいの言葉と態度を表さない,仕事が忙しいと話も聞かずに任せっぱなし。妻の我慢は限界に達することで離婚に至る。逆に,妻の親に介護必要になったときに,自分は何ができるのか。これも含めて,夫婦で話し合っておくことが必要だ。

 最後に,子供や孫について。団塊世代という名称を作り出した堺屋太一さんは,講演で「子供にお金を渡してはいけない。すべて自分のために使い切って,あの世に行くべき」というようなことを話していた。そうすれば「オレだ,オレだ」と言われて,簡単に大金を振り込むような「振り込め詐欺」に引っかかることもなくなるという。

 子供が成人しても,何かとお金をつぎ込むのは,「子がかわいい」という気持ちのほかに,老後を頼ろうとする気持ちが,どこかにあるからだろう。しかし,育てる過程で,すでに投資は十分済んでいる。親子ともども「自立」が必要だ。むしろ,第2の人生では,自分と妻への投資を復活させてはどうだろうか。

(松本すみ子=アリア/シニアライフアドバイザー)

     
 

copylight 2004 arias All rights reserved.