松本すみ子の「定年準備講座」
 

第6回 損しない年金のもらい方 <その2>        2005年11月22日
       〜繰り上げ/繰り下げは得か損か〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 年金でよくいわれるのが「支給開始年齢を繰り下げると,後からたくさんもらえるので得だ」ということ。しかし,逆に「繰り上げ」という方法も存在する。その辺りの知識を整理してみたい。前回に続き,年金アドバイザーとして活動する山口拓郎さん(75歳)にアドバイスしてもらう。

 また,昨今関心の高い問題,離婚したら年金はどうなるのかという点も伺ってみた。我が家には関係がないと思っている人も,万一ということがある。知っていて損はない。

◆年金繰り下げは長寿の自信が前提

Q:年金は「繰り下げ」という方法をとると,得だと聞いています。

 結論から先に言うと,経済的に余裕がある人は,将来の年金を増額する手段としては極めて有効です。もちろん,健康で長寿の見通しがあることが前提になります。せっかく苦心して将来に備えたつもりでも,その果実を十分収穫しないまま終わるかもしれません。イソップにアリとキリギリスの物語があります。今を楽しむか,今我慢して将来に備えるか。どちらの生き方を選ぶかは人それぞれですが,よく考える必要があります。

 繰り下げの対象になるのは,60代後半から受給される老齢給付年金(社会保険事務所で聞いてみた<その1>の3ページ表)です。ここは大きな勘違いをしやすいので注意してください。「繰り下げ」は60代前半の老齢給付は対象になりません。65歳まで我慢してもらわずにいても,増えることはないのです。

Q:手続きをしないでいると,その分はまったくもらえないのですか。

 勘違いして手続きをしないでいた場合でも,前回もお話したように,5年前まで遡って受給できます。しかし,65歳の誕生日以降に手続きをすると,5年を超える部分は時候になって支給されません。これは損です。60歳前半の年金は,忘れずに受給手続きをしましょう。

Q:「繰り下げ」とは,どういう仕組みなんでしょう。

 現状の「老齢基礎年金」は原則65歳から支給されますが,希望すれば65歳から70歳の間で「繰り下げ」受給することができ,その後の支給額が増額されます。昭和16年4月1日生まれを境に異なった支給率となり,表1のように,団塊世代の場合は支給率Bが適用されます。(具体例は,社会保険事務所で聞いてみた<その2>の4ページ参照)

表1 繰り下げ支給の支給率
請求時の年齢 支給率A(%)
66歳0カ月〜66歳11カ月 112
67歳0カ月〜67歳11カ月 126
68歳0カ月〜68歳11カ月 143
69歳0カ月〜69歳11カ月 164
70歳0カ月〜 188
注)繰り下げ支給の支給率Aの算出方法:
「100%+(繰り下げた月数×0.7%)」

対象となるのは,現在のところ,60代後半の老齢給付のうち「老齢基礎年金」のみですが,平成16年の改正で,「老齢厚生年金」も「繰り下げ」ができるようになります。ただし,施行は平成19年4月からです。

 昭和16年4月2日以降生まれの人には,請求が年単位から月単位になったことは大きなメリットです。例えば,それ以前は66歳でも66歳11カ月でも同じ受給率ですが,新しい受給率では,66歳は108.4%,60歳11カ月は116.1%と7.7%も違ってきます。受給率が上がるのを,次の誕生日まで待つ必要はないということですね。

Q:「繰り下げ」の損得の分かれ目が何歳かを気にする人が多いようですね。

 ごくおおまかに計算してみると,昭和16年4月1日以前生まれの人は77歳あたり,昭和16年4月2日以降生まれの人は82歳あたりが「繰り下げ」を行う損得の分岐点になります。それ以上,長寿を保つ自信のある人は「繰り下げ」が得ということになります。

 もちろん,これは単純に年金額のみで比較した場合です。例えば,60歳代後半でお勤めを継続し,高額の収入がある場合は税金と併せて考えてみなくてはなりません。また,「障害年金」や「遺族年金」を受給している人は「繰り下げ」はできませんので,注意してください。

◆「繰り上げ」は年金の空白期間を埋める手段

Q:逆に,「繰り上げ」というのがありますね。

 60歳代前半は年金の空白期間と言われています。財政の逼迫から,60歳から支給されていた「特別支給の老齢厚生年金」の支給が段階的に引き上げられ,最終的に65歳となる措置が取られるようになったためです。そのために生じた年金の空白期間を埋める手段として,「繰り上げ」がクローズアップされてきました。

 「繰り上げ」をすると,支給時期が早くなることは有利ですが,半面,支給額を減額されるという不利があります。しかし,それまであった「繰り上げ」に加え,「一部繰り上げ」という新しい仕組みが導入され,「繰り上げ」をしたい時には,「全部繰り上げ」と「一部繰り上げ」のどちらかを選ぶことができるようになりました。

Q:「全部繰り上げ」と「一部繰り上げ」はどう違うのでしょうか。

 「全部繰り上げ」を選択した場合は,65歳から支給される老齢基礎年金が一定の率で減額されます。例えば60歳で繰り上げ受給を選ぶと,表2のように,本来もらえる年金額の70%になります。そして,ここでいったん決まった受給率は一生続きます。

表2 繰り上げ支給の支給率
請求時の年齢 支給率B(%)
66歳0カ月〜66歳11カ月 58
67歳0カ月〜67歳11カ月 65
68歳0カ月〜68歳11カ月
72
69歳0カ月〜69歳11カ月 80
70歳0カ月〜 89
注)繰り上げ支給の支給率Aの算出方法:
「100%−(繰り上げた月数×0.5%)」

 「一部繰り上げ」は仕組みがかなり複雑ですので,簡単には算出できません。個別に専門家に相談する方がいいでしょう。賢明な手段としては,社会保険事務所に照会することです。「本来」,「全部繰り上げ」,「一部繰り上げ」などを試算し比較した回答票を作成してもらえます。

「一部繰り上げ」は,減額率がかなり緩和されているので,「全部繰り上げ」よりは有利です。ただし,減額された受給額が一生続くのは「全部繰り上げ」と同じです。65歳で元の受給率に戻るということはありません。万一,早く死亡した場合は有利かもしれませんが,よほど特別な事情がある場合を除いては,選ばない方が賢明と言えるでしょう。どの方法で受給するかは,実際にそれぞれの支給額で算出し,比較検討することが重要です。

◆平成20年4月以降の離婚は自動的に2分の1が妻のものに

Q:平成19年から離婚後に夫婦が受け取る年金を分割できると聞きました。

 平成16年の年金改正で,「離婚時の老齢厚生年金」の分割制度の導入が決まりました。現在,専業主婦が離婚した場合,老後に受け取る年金は「老齢基礎年金」のみで,40年かけたとして満額もらえても月6万円強です。満額をもらえる人は稀で,多くは月3万〜4万円というのが実情です。これでは生活は支えられません。共働き世帯でも,男女の賃金格差などから妻の年金は一般的に十分なものではありません。そこで,平成19年4月以降の離婚から2段階を経て,「分割制度」が導入されることになりました。

 第一段階は,専業主婦の場合,夫が受給する「老齢厚生年金」のうち,婚姻期間中に夫が保険料を納付した期間に関して,最大2分の1を限度として妻に分割されるというものです。「老齢基礎年金」の部分は対象になりません。

 共働きの場合は,婚姻期間中の保険料にかかわる夫婦の厚生年金を合算し,その2分の1を限度として妻に分割されます。分割に関しては夫婦で協議し,社会保険事務所に届けます。合意に至らない場合は,いずれか一方の請求により,裁判所の調停などによって確定します。分割請求は,離婚成立後2年以内に申請しなくてはなりません。

 平成20年4月からは第2段階に移ります。ここからは,第3号被保険者の保険期間については夫婦共同で厚生年金保険料を負担したとみなし,2分の1が自動的に妻の受給分になります。妻の内助の功が認められ,夫の合意も裁判所による調停も必要なくなります。

Q:妻の権利をきちんと認めるようになるわけですね。

 今まで離婚後の生活に不安が多かった専業主婦には有利な制度ですね。ただし,逆もあります。婚姻期間中に妻の方が高額な給与をもらっていた場合は,妻が夫に年金を分割することになります。常に妻が夫の年金をもらえるということではないのです。

 また,ずっと専業主婦だった人が分割された年金を受け取れるのは,自身の国民年金を受給できる65歳からです。60歳で離婚しても,65歳までは受け取ることができないので,専業主婦は要注意です。内縁の妻,事実婚の扱いは,今後の省令で定めるとのことです。

Q:損をしない離婚の仕方はありますか。

 多くのサラリーマンOBは「加給年金」を受けています。これは夫の年齢によりますが,通常かなり高額です。この「加給年金」は妻が65歳になるとなくなり,代わりに妻の「老齢基礎年金」に振り返られます。額は減りますが,この「振替加算」は妻に属する固有の年金です。つまり,夫が亡くなっても,離婚しても,再婚しても,妻が生きている限り支給されます。仮に離婚はやむを得ないとしても,妻は65歳になるまで待ち,「振替加算」の受給権を得た上で離婚した方が得かもしれません。

◆山口さんが相談活動を行っている関東シニアライフアドバイザー協会
http://kanto-sla.com/index.html

(松本すみ子=シニアライフアドバイザー)

     
 

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