松本すみ子の「定年準備講座」
 

第5回 損しない年金のもらい方 <その1>        2005年11月15日
       〜意外に多いもらい忘れに注意!〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 前回前々回の年金ルポで紹介した団塊サラリーマンの事例でも分かるように,年金の仕組みは複雑だ。そのためもあって,厚生年金のもらい忘れは少なくないという。なにはともあれ,年金の申請は自分でしなければならない。その時,知識不足で損をすることのないように,年金に関する注意点や留意点をチェックしてみよう。

 今回は,多くのセカンドライフ・セミナーで年金アドバイザーとして講師を務める山口拓郎さん(75歳)に,アドバイスしてもらった。山口さんは65歳でリタイア後,余暇生活開発士,シニアライフアドバイザー,年金アドバイザーの資格を取り,仲間と年金・相続・遺言などの研究を行っている。

 「濡れ落ち葉になりたくないと余暇開発に努めた結果,多忙になり,今は余暇欠乏症に陥っています」。山口さん自身,充実した人生二毛作の実践者でもある。

◆「職の自分史」で人生の節目を確認する

Q:年金は自分で申請しないともらえないと聞きました。税金などの諸手続きを,今までほとんど会社にやってもらっていたサラリーマンは不安かもしれませんね。

 年金は,受給資格があっても「請求」しなければもらえません。このことはしっかり頭に刻み込んでおきましょう。厚生年金加入者は「国民年金・厚生年金保険老齢給付裁定請求書」というものに必要書類をつけて提出します。手続きの窓口は,厚生年金の場合は勤務先の所属する社会保険事務所,国民年金のみの場合は住んでいる市町村役場,共済年金の場合は加入していた共済組合になります。

 最近,社会保険庁は老齢給付金を受け取る年齢になる直前に,年金の請求書類を送付するサービスを始めると報じています。しかし,まだ不透明な面が残されていますし,完璧ということはありません。人頼みにしないで,自分の人生には自分で注意を払うという自助努力が必要です。

Q:不備はすべて自分自身に跳ね返ってくるということですね。

 そうです。そうならないためにも,事前に「職の自分史」(図1)のようなものを作成しておくことをおすすめします。就職,転職,退職などの人生の節目を表にしてみてください。できれば現役時代から,きちんとチェックしておくことです。

 図1 職の自分史

これでチェックしておけば,妻の年金種別の変更忘れも防ぐことができます。夫の退職と同時に,妻は国民年金の第三号被保険者ではなくなるので,妻が60歳未満の場合は,第一号被保険者への変更が必要です。妻は,60歳まで国民年金の保険料を支払う必要があります。

◆加給年金の支給を忘れずに

Q:申請はいつしたらいいですか。申請に必要な書類などは?

 受給権は「満年齢に達した日(誕生日の前日)」に発生します。それ以降であれば,いつでも請求できます。添付書類には,「年金手帳・厚生年金被保険者証(本人と配偶者のもの)」,「戸籍謄本(請求できる誕生日以降交付のもの)」,「住民票(世帯全員記載のもの)」があり,それに印鑑と「請求者名義の預金通帳」が必要です。

 「加給年金」の受給権がある時は,妻の場合は「課税証明書または非課税証明書」,子の場合は,その生計維持を証明する在学証明書または生徒手帳のコピーなどが必要です。また,失業保険を受ける場合は「雇用保険受給資格証明書」も添付します。ただ,ケースによって異なるので,あらかじめ提出窓口に確認しておいた方が無難でしょう。準備は3カ月前くらいから始めるといいのではないでしょうか。

 「雇用保険」は最大限に活用することをおすすめします。失業等給付の基本手当(いわゆる失業手当)をもらっている間,年金は支給停止になりますが,そのまま年金生活に入るよりも基本手当を受給した上で年金生活に入る方が,多くの場合,経済的には得になります。基本手当の支給日数は表1のとおりです。

表1 雇用保険の至急手当の支給日数

倒産・解雇等による離職者の場合

倒産・解雇等意外の自由による離職者の場合

Q:「加給年金」とは何ですか。

 加給年金は会社での家族手当に相当するもので,額も少なくありません。申請を忘れないようにしたいものです。加給年金の対象となるのは,生計維持関係にある65歳未満の配偶者または18歳未満の子です。加給年金額は22万8600円です。

 さらに,夫の生年月日により加算額(表2)があります。配偶者が65歳になると支給されなくなりますが,配偶者の「老齢基礎年金」に「振替加算」として支給されます。「振替加算」は,配偶者独自の年金で,夫の志望や離婚に関係なく一生涯加算されます。

表2 課金年金の額

生年月日 加給年金額 加算額 加算後加給年金額
大正15年4月2日〜昭和9年4月1日 22万8600円 0円 22万8600円
昭和9年4月2日〜昭和15年4月1日 3万3700円 26万2300円
昭和15年4月2日〜昭和16年4月1日 6万7500円 29万6100円
昭和16年4月2日〜昭和17年4月1日 10万1300円 32万9900円
昭和17年4月2日〜昭和18年4月1日 13万5000円 36万3600円
昭和18年4月2日以降 16万8700円 39万7300円

Q:申請時に注意することはありますか。

 平成9年に「基礎年金番号制」が導入され,「年金手帳」は一本化されました。それ以前は制度によって複数発行されていました。自分の年金がすっきりした形になっているかを,念のため確認しておいてください。複数の「年金手帳」を持っている人はすべて持参しましょう。また,転職経験のある人,「厚生」と「共済」の両方の受給権のある人は,申請の窓口がどこになるかを確かめておきましょう。

◆もらい忘れがあってもあきらめない

Q:自分で請求することを知らなかったとか,忘れていた場合はどうなりますか。

 手続きが遅れた場合でも,5年以内ならば遡って請求することができます。それ以前は時効になってもらえません。たとえば,若いときに1年以上厚生年金に加入したことがあり,受給もれがあったことに気づいて,67歳で請求したとします。60歳から受給権が発生していたわけですが,過去5年分の62歳以降の分しかもらえず,2年分は支給されません。こうした例は女性に多いので,特に,奥さんの年金に注意してください。

Q:もらい忘れが増えていると聞きましたが?

 最近,金融機関が年金の振込先に指定してもらおうと,年金チェックのサービスを積極的に行っています。結果として,自分では気づかなかったもらい忘れを発見する機会が増えたようです。100名のうち5〜6人にもらい忘れがみつかるとか。結構,高い確率ですね。

 私の知人でこんな例があります。若いころ,大阪の繊維商社に3年ほど勤めていました。現在,その会社は倒産してなくなり,社名も所在地も明確に記憶していないため諦めていました。しかし,社会保険庁に問い合わせた結果,5年前に遡って受給できるようになったのです。正確に記憶していなくても,所在地の区とか社名程度でも調査してもらえますので,あきらめないことです。

 もらい忘れが多いのは,男性は転職が多かった場合の「抜け」,妻の場合は結婚前の会社勤務,子育て終了後の一時的な勤務などです。先に紹介した「職の自分史」と「年金手帳」をじっくり検討してみたら,案外「もらい忘れを発見」ということがあるかもしれません。

Q:受給開始後に,注意することはありますか。

 毎年,社会保険庁から郵送されてくる「現況届」や「扶養親族報告書」を提出する必要があります。この届けを忘れると,年金がストップされますが,受給権自体がなくなってしまったわけではありません。現況届を提出すれば復活します。停止されていた期間分の年金も支給されますので,損にはなりませんが,忙しさなどにかまけて忘れないようにしましょう。

 次回は,年金の繰上げ/繰り下げ支給,離婚時の年金などについて,山口さんにアドバイスしてもらう。

◆山口さんが相談活動を行っている関東シニアライフアドバイザー協会
http://kanto-sla.com/index.html

(松本すみ子=シニアライフアドバイザー)

     
 

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