松本すみ子の「定年準備講座」
 

第4回 どうなる私の年金 <その2>        2005年11月08日
       〜社会保険事務所で聞いてみた〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 前回のA氏(56歳)は転職経験がなく,加入も厚生年金のみと,団塊世代としては典型的なサラリーマンのタイプだった。今回登場するB氏(57歳)は転職経験があり,厚生年金から国民年金への変更も行っている。また,厚生年金基金を上乗せしていた時期がある。そして,将来は70歳まで働きたいという希望を語っている。

 B氏の場合から考えられる注意点と,人生設計に基づいた年金のもらい方をチェックしてみた。

◆年金請求に最も大切なものは「受給資格期間」

 年金は25年(300月)以上の加入期間や合算対象期間がないともらえない。B氏は厚生年金と国民年金の切り替えを行っているが,両方の加入期間を合算すればよく,すでに25年をクリアしているので問題はない。

 注意しなければならないのは,一時期独立して自分で仕事をしていたり,フリーな時期がある人だ。保険料を納めていない時期があるかもしれないので,60歳の時点で自分の加入期間が25年以上あるかどうかを確認した方がいい。万一,加入期間が25年に満たない場合のために「中高年の特例」がある。早めに気づけば,対処の仕方もあるのだ。

 「中高年の特例」とは,昭和26年4月1日以前に生まれた人は,男性で40歳,女性で35歳以降の厚生年金の加入期間が,生年月日に応じて15〜19年であれば受給資格があるというもの(表1)。団塊世代はこれに当てはまるので,加入期間が満たない人もあきらめてはいけない。

  表1  

昭和26年4月1日以前に生まれた方は、男性で40歳、女性で35歳以降の厚生年金保険の加入期間が、生年月日に応じて15年〜19念以上。

 

 

◆年金基金は絶対に得!

 B氏が有利な点は,会社が厚生年金基金への加入をすすめていたことだ。厚生年金基金とは,企業の実情に応じて独自の上乗せ給付を行うことで,基金加入者は基金未加入者よりもより多くの年金を受給することができる。しかも,上乗せ給付部分は基金に加入している企業が全額負担する。社員とっては大変有利で,ありがたい制度なのである。

 このような制度は国民年金にもある。最近,ゴルフの宮里藍さんが登場しているコマーシャルを見たことがあるのではないだろうか。あれが「国民年金基金」だ。何が得かというと,掛金が全額「社会保険控除」の対象となり,所得税・住民税が軽減されることだ。毎月の「掛金」の上限は6万8000円。賢い人は大いに利用しているらしい。

 今からでも遅くはない。該当する人は「国民年金基金」のホームページで確認して,検討してみてはどうだろう。

◆定年後に働くと年金額は減る

 さて,B氏は健康のためにも,70歳くらいまでは働きたいという希望を持っている。働くといっても,負担にならない程度に週2〜3日程度働く人がいれば,継続してフルタイムで働く人もいる。どういう働き方をするかということで,年金は違ってくる。

 まず,週に2〜3日程度働く場合。たぶん,この人たちは「厚生年金」には加入しないだろう。そうであれば,「老齢年金」は全額支給され,差し引かれることはない。給料とその1で説明した60歳代前半の「老齢年金」の合計額が収入となる。

 問題は,再就職や定年延長などで厚生年金に加入する場合だ。B氏はできれば,60歳以降はこの形で働きたいと思っている。当然ながら,60歳以降に働いて厚生年金の加入者になると,賃金に応じて年金が減額される。これが「在職老齢年金制度」である。「在職老齢年金制度」では,月給と年金の合計が28万円を超えると減額される。その金額は,「支給停止額(年額)の計算式」(表2)に当てはめれば分かる。例えば,年金の基本月額が15万円,月給(総報酬月額相当額)が18万円とすると,年間30万円,月額にすると2万5000円の減額である。

表2 

 たいていの人は年金を減らされたくないと思うので,なるべく月給を低く抑えようとする。結果,高齢者の賃金が抑制されているとか,労働意欲の減退につながっているなどと批判の生まれている部分でもある。筆者の周りでも,年金をもらいながら,厚生年金に加入して働いている人は不満たらたらだ。しかし,若い世代から見たら,収入がありながら年金を全額もらえるという状況は,虫のいい話に写るかもしれない。年金問題の難しさがここにある。

 60歳以降に働く場合,救済措置がある。それは「高齢者雇用継続給付」制度である。これは,定年後の賃金が60歳時点での賃金の75%未満だった場合は,「継続給付金の支給額のめやす」(表3)に当てはめた金額を毎月支給されるというもの。条件は60歳までに5年以上雇用保険に入っていることで,支給は60歳から65歳までである。忘れずに手続きしたい。

表3 継続給付金の支給額のめやす
届け出た60歳時の賃金
20万円 25万円 30万円 35万円 40万円 45万円




10万円 15,000円 15,000円 15,000円 15,000円 15,000円 15,000円
13万円 13,100円 19,500円 19,500円 19,500円 19,500円 19,500円
15万円 22,500円 22,500円 22,500円 22,500円 22,500円
18万円 4,900円 27,000円 27,000円 27,000円 27,000円
20万円 16,400円 30,000円 30,000円 30,000円
23万円 21,300円 34,500円 34,500円
25万円 8,200円 32,500円 37,500円
*空白の部分は、賃金が75%未満に下がらないので、支給されない。

 ところで,リタイア後はハローワークで「失業手当」の手続きを行うことができる。これも忘れないようにしよう。「失業手当」をもらっている間,年金は支給停止になるが,長年勤めた人は,年金額より失業手当の方が高額である場合が多い。どちらが得かを見極めて判断したい。

◆「繰下げ支給」の勘違いと損得の分岐点

 65歳から受給できる老齢基礎年金は,40年納めた場合,年額79万4500円である。これが最大。加入年数によって金額が異なるので,次の式で計算してみてほしい。これに老齢厚生年金がプラスされたものが,65歳以降の年金額だ。

 B氏は,70歳まで働けるのであれば,その間の年金はもらわないで,後から支給額が有利になる「繰下げ支給」を選択したいと思っている。しかし,この「繰下げ返済」は勘違いしやすいので,要注意だ。繰下げの対象となるのは65歳以降の老齢給付金だけで,60歳から64歳でもらえる「特別支給の老齢厚生年金」には適応されない。この期間を我慢してもらわないでいても,その後の支給額に影響することはないのだ。逆に,みすみす損をすることになる。遠慮なく,もらっておこう。

 現在,繰り下げができるのは「老齢基礎年金」だけだ。しかし,平成19年(2007年)から「老齢厚生年金」も繰り下げできるようになる。これも団塊世代を考慮した改正だろう。老齢基礎年金の繰り下げは,65歳から70歳の間で設定することができる。

 支給率は表4のとおりで,昭和16年4月2日以降生まれの人が70歳まで繰り下げすると,70歳以降には最大142%が支給されることになる。しかし,繰り下げた期間の年金はゼロだ。その期間を持ちこたえることができるかどうか。それが問題である。

表4
請求時の年齢 支給率(%)
66歳0カ月〜66歳11カ月 108.4〜116.1
67歳0カ月〜67歳11カ月 116.8〜124.5
68歳0カ月〜68歳11カ月 125.2〜132.9
69歳0カ月〜69歳11カ月 133.6〜141.3
70歳0カ月〜 142.0

 繰り下げは本当に有利なのだろうか。65歳から規定どおりにもらう場合と繰り下げした場合を大まかに計算してみたところ,昭和16年4月2日以降生まれの人では82歳あたりが損特の分岐点だということがわかった。B氏の場合は,70歳後半だった。それ以上長生きする自信のある人には得かもしれない。いずれにせよ,税金なども考慮して,よく考えてから判断した方がいいようだ。

◆自分にもしもの時,妻の年金は?

 次に,B氏が心配したのは「万一,自分が死んだら,年金はどうなるのだろう」ということ。被保険者または老齢基礎年金の資格期間を満たした者が死亡した場合,65歳未満の配偶者には「遺族年金」が支給される。だだし,配偶者の年収は850万円以下であることが条件だ。妻がほぼ専業主婦のB氏は問題なし。

 しかし,これも妻が65歳になると支給されない。その代わりに妻自身の老齢基礎年金として振り替えられ,それは一生続く。なので,金額的にはあまり変わらないはずだ。ひとまずは安心というところだろう。

 なお,今回登場したお二人には関係がなさそうだが,夫婦の間で可能性のあるのが離婚。平成19年4月から年金の分割制度が導入される。これは,次回に詳しく解説する。

 年金制度はどんどん変わっていく。今後の年金制度改革のスケジュールを見ると,平成20年まで次々と改正事項が決まっている。特に今,関心が高いのは,保険料の値上げと,厚生年金・共済年金・国民年金の一元化だ。このような過渡期に,私たちはどのような人生設計をしたらいいのだろうか。しっかりと政府の取り組みや議論に注目して必要がある。

 年金を考える際に大事なことは,定年後に自分はどんな人生を送りたいかということだ。リタイアして悠々自適の毎日を送るのか,何歳まで働くのか,どんな働き方をするのか。それによって,年金の受給額は違ってくる。年金を考えることは自分の生き方に思いを馳せることなのである。

     
 

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