松本すみ子の「定年準備講座」
 

第3回 どうなる私の年金 <その1>        2005年11月01日
       〜社会保険事務所で聞いてみた〜

 
*このエッセイは、日経BP「団塊世代のための定年準備講座」に掲載したものです。
 

 第2の人生設計に,先立つものは生活資金。なんだかんだ言っても,団塊世代の多くは,年金を生活資金の核として考えざるを得ない。いったい,自分の年金額はいくらなのだろうか。

 「それを知らなきゃ,始まらない」ということで,団塊サラリーマンA氏とB氏に,実際に社会保険事務所に出向いてもらい,自分の年金見込額を試算してもらった。「金額はともあれ,なんとなくすっきりした」というのが,お二人の感想。そのルポを2回にわたって報告する。

◆年金相談に行く前の準備と予備知識

 年金の仕組みは複雑だ。支給金額は勤務年数,家族構成,給与や賞与の額,年金の掛け方などで,一人ひとりまったく違う。「同期のあいつとほぼ同じだろう」などと思ったら,大間違いなのである。

 自分の年金見込額を知りたくなったら,社会保険事務所に聞きにいくのが一番だ。相談できるのは全国にある社会保険事務所。どこで相談してもいいことになっている。全国の年金相談窓口は,社会保険庁ホームページの「相談窓口一覧」で調べることができる。

 相談窓口に直接出向けない人のためには,手紙での相談も受け付けている。ただし,年金見込額試算の対象となるのは55歳以上。55歳未満は年金加入記録の回答のみである。また,58歳になると社会保険事務所から,「年金加入記録」の確認通知が来る。このとき,年金見込額を試算してほしいと希望すれば知らせてくれる。

 さらに,社会保険庁の「年金加入記録照会・年金見込額試算」サイトにある「年金額簡易試算」システムを利用して,自分で試算することもできる。このシステムは誰でも利用できるが,加入期間が合計25年(300月)以上必要なので,実際には40代半ばにならないと年金額を知るのは難しい。

 インターネットで試算してみるのも悪くはないが,実際に窓口に出向いて,年金の専門家にいろいろと疑問点を聞いてみることをおすすめする。A氏は京橋社会保険事務所,B氏は新宿年金相談センターに行ったのだが、どちらも親切に納得できるまで教えてくれた。年金加入者の権利として,大いに利用すべきだろう。社会保険庁のホームページには,相談時に持参するもの,本人が行けない場合の相談方法などが記載してあるので,相談に行く前にチェックするといい。まず職場や自宅近くの社会保険事務所に足を運んでみることが,リタイア後の人生設計の第一歩になるのではないだろうか。

◆「被保険者記録照会回答票」が語るサラリーマン人生

 10月のある晴れた日。午前9時に,団塊サラリーマンA氏と共に京橋社会保険事務所に出向いた。A氏の勤務先は銀座なので,ここが最も近い。早い時間帯に行ったのは,相談窓口が混雑する前に済ませたいという思いから。場所と時間帯によっては長時間の順番待ちもあるので,要注意だ。各相談所の混雑予想時間は「相談窓口一覧」サイトで事前に調べることができる。

 カウンターで相談申込書を書いて提出すると,すぐにベテランの女性担当員がいるブースに案内された。年金手帳の提示を求められるが,A氏の場合は会社が預かっているので持って来ていない。しかし,大丈夫。その場合は,免許証や保険証などの本人が確認できるものを提示すればよい。ただし,本人以外が相談する場合は,委任状が必要だ。

 本人が確認されると,担当者はパソコンに向かって,A氏の「被保険者記録照会回答票」を出力する。まずこれで,年金を請求するために必要な期間を満たしているか,転職などに伴う加入歴は正しいかなどの確認を本人と一緒に行う。A氏は昭和24年2月生まれの56歳。大学卒業と同時に不動産会社に就職し,転職の経験はない。30年以上の厚生年金加入期間があり,300月以上という年金の請求に必要な時間は十分満たしている。

 A氏のような会社員が加入するのは「厚生年金」である。年金は3階建ての構造になっている。1階は,20歳以上の国民が加入する「国民年金」で,第一号被保険者。2階部分は会社員や公務員が加入している「厚生年金」や「共済年金」。これに加入している人が第二号被保険者で,自動的に国民年金にも加入していることになっている。会社員や公務員の配偶者で専業主婦も国民年金加入者とみなされており,第三号被保険者と分類される。最後の3階建ての部分は,任意で加入する「厚生年金基金」や「企業年金」である。

 「被保険者記録照会回答票」では,加入区分,加入月数,入社してから現在までの毎年の標準報酬月額と標準賞与額,転職や届出状況(新規加入,再取得,月額変更,資格喪失など)といったデータを見ることができる(図1:実際の表ではないデータ見本)。

 たいていの人は,自分の過去の給料やボーナスの額などを覚えてはいないだろう。しかし,この票では,初任給の額,年を追って増えていった支給額,逆にある時点から横ばい,または減額した給与が手に取るようにわかる。今回協力してくれたお二人とも,自分のサラリーマン人生の変遷を思い起こし,ある種の感慨を持ったようだ。

◆年金はいつからもらえるか

 年金見込額の算出にかかる前に,年金受給開始年齢について確認しておく必要がある。生年月日や性別によって,開始時期が異なるからだ。具体的には図2「公的年金の受給開始時期」を見てほしい。年金の受給開始年齢は1985年の年金改革で,60歳から65歳に引き上げられた。ただし,60歳定年が一般的な現在,いきなり適応されては問題あるので,段階的に受給開始年齢を引き上げる移行期間を設けた。現在は,その移行期間にあたる。

 男性は昭和16年4月1日生まれから昭和28年4月1日生まれまで,女性は昭和21年4月2日生まれから昭和33年4月1日生まれまでの人は60歳から「特別支給の老齢厚生年金」の報酬比例部分を受給することができるが、「定額部分」については、支給開始年齢が段階的に引き上げられている。

 A氏は昭和24年2月生まれの男性なので,「報酬比例部分」は60歳になれば請求できるが,「定額部分」は64歳にならないと請求できない。ちなみに,年金は自動的に支給されるのではなく,本人が請求手続きをしてはじめて支給される。

 この表をみて,なぜ,女性は男性より早くもらえるのかと不思議に思う人もいるのではないだろうか。この点も聞いてみた。

 それによると,以前は多くの企業で女性の方が退職年齢が早めに設定されていたなど,男女平等ではない現実があった。それを考慮した仕組みなのだという。当然ながら,将来的にはこの制度もなくなっていく。

◆A氏の年金見込み額の算出

 さて,A氏の年金見込額はいくらになるのだろうか。とりあえず,60歳で定年を迎え,再就職などはしない場合の金額を出してもらった(図3:「年金見込額照会回答票」実際の表ではないデータ見本)。60歳から64歳までは「特別支給の老齢厚生年金」のうち「報酬比例部分」だけがもらえる。数字は年額だ。例えば「報酬比例部分」が120万円だとすると,月額10万円という計算になる。

 64歳の1年間は,この「報酬比例部分」に「定額部分」を足した合計金額が支給される。例えば年額60万円とすると,月額にして5万円。「報酬比例部分」との合計月額は15万円となる。

 これで終わりではない。既婚者の場合は,さらに,配偶者の加給年金額がつく。妻も65歳になると自分自身の年金支給が始まるが,それまでは夫の加給年金額の対象となる。A氏の場合,妻は同い年。したがって,妻が64歳の1年間は配偶者の加給年金額を加算してもらえる。これも例えばだが,年額36万円とすると,支給月額の合計は18万円となる。

 A氏は「女房の年齢も年金額と関係があるとは思わなかった」とつぶやいた。団塊世代は友達結婚が多いので,夫婦の年齢が近い。中には,妻が年上という場合もある。夫が64歳になった時,妻が65歳以上になっていれば,配偶者の加給年金額はつかない。とはいえ,夫の加給年金額がなくなるだけで,65歳から妻も自分の年金をもらえるようになる。夫婦の年金を合算すればいいのである。

 逆に,夫の定年時に,妻が60歳未満で第三号被保険者の場合は第一号被保険者への変更手続きが必要になり,60歳まで国民年金の保険料を払わなければならない。愛に年の差は関係ないが,年金にはあるのである。

 次回は,雇用保険を申請した場合,60歳以降に働いた場合,被保険者が死亡した時の配偶者の遺族年金,離婚に伴う年金の分配などについて報告する。

     
 

copylight 2004 arias All rights reserved.